動物事情の日米比較

西山 ゆう子獣医師のFBから転載します。


2015/10/19
 「全国の犬猫の殺処分数は年間16万頭。確実に減ってきています。一方アメリカは何百万匹ですよね。今は日本のほうがいいんじゃないですか?」という質問を受けました。

 Aさんへ。
 質問ありがとうございます。私は米国がよくて、日本が悪いと結論したことはなく、両国とも問題は山のようにあると感じています。
 私は、米国と日本の両国で、動物愛護に30年間、直接関わり、臨床獣医師として毎日ペットと飼い主さんと関わり、両国のアニマルシェルターで働き、文化や習慣の違いも見てきました。そして感じるのは、両国ともいい部分、悪い部分がありながらも、やはり日本の殺処分に関して言えば、日本は米国よりも悪状況であると感じています。

 その理由はいくつかあります。
 まず第一に、動物の福祉レベルは、殺処分数という数値だけで判断するものではない、と感じているからです。公表された数値を比較すれば、確かに大きな違いがありますね。
 これらの数値を比較するならば、分母―すなわち、全国で飼育されている犬猫の飼育数を考慮しなくてはなりません。全人口数から、さらに人口における高齢者やファミリー世帯の割合などにより、ペット飼育人口は左右されます。

 さらに、飼育されていない犬猫、すなわち、野良犬、野犬、野良猫、地域猫の数も、考慮しなくてはなりません。すなわち、飼い主がいないとされている野良犬野良猫の数、それが、どのくらい捕獲されて処分されているのか、これらの数値に影響します。地域猫の数など、実情を把握するのは難しいですね。

 迷子のペットはどうでしょうか。すぐに飼い主が探せる制度(タグ、マイクロチップ)の普及、あるいは、飼い主がペットを探すシステムの充実度も、この数値に影響します。
 子犬、子猫、ひと腹一まとめにして持ち込まれる数に関しては、どうカウントしているのでしょうか。両国とも同じ基準があるのでしょうか。
 病死、自然死に関しては、この統計数値に加えているのでしょうか。いないのでしょうか。

 安楽死に関してはどうでしょうか。薬物によるものを、安楽死、ガス処分のことを、殺処分、として、私は言葉を使い分けていますが、これを統計に入れる、いれないの基準は両国とも同じでしょうか。
 獣医師が常在していないシェルター内で、保護動物が病気になり、連れて行った動物病院で、苦しみから解放させるために安楽死をしたら、それが統計に加わるのでしょうか。

 以上のことから、日本と米国の、統計数値が、同じ基準でなされていなければ、意味がないことがお分かりいただけると思います。次に、日本と米国の、統計に加えている施設(シェルター)自体が、異なっているという問題があります。
 日本の環境省が発表している数値は、全国の自治体からのものです。全国の保健所、愛護センターです。民間の保護施設、保護団体は含まれていません。(私はそう理解していますが、間違いないですか?)。

 米国獣医師会が発表している「全米のシェルターの安楽死数」は、年間270万匹。この数値はあくまで推定で、複数の関連業者、関係者から集めたデータにすぎませんが、すべてのタイプの全米のシェルターの統計です。すなわち、行政管轄の公共のアニマルシェルター(日本の保健所、動物管理センター、動物保護センターに相当するもの)に加えて、さらに、NPOの愛護団体保有のシェルター(日本の場合、神奈川県動物愛護協会など他)、民間の愛護団体のシェルター(日本の場合、ARK-アニマルレフュジ関西、ランコントレ・ミグノンなど他多数)、さらには、個人の愛護活動の人たちが関わったペットも、統計に加算しています。全米に推定、13,600件の公共、民間、個人のシェルターがあると見積もられています。その中には、自分の家に1匹、2匹、無理のない範囲で、ペットを保護して、譲渡先を探している、というタイプも含まれます。これら、全部合わせて、年間270万匹が安楽死されていると見積もられています。
 日本の環境庁の統計には、民間や個人の保護活動の数値は含まれていませんね。

 最後に、安楽死を統計データに加えるかどうか、あるいは、病死を含めるかどうか、の違いがあります。
 米国のシェルターでの安楽死には、2種類があります。一つは、譲渡できるにも関わらず、人為的な要因で、安楽死、あるいは殺処分をするケース。施設が満杯になった、世話をする人がいない、予算がない、などの理由によるものです。もう一つは、病気のための安楽死です。もう治らない病気、あるいは、非常に苦痛を伴う場合、治療に大金を要するので基本無理、という場合です。さらに、動物の行動学的問題により、安楽死が選択されることもあります。吠える、噛む、人に慣れていない、などです。

 米国の安楽死数が多いのは、文化もありますが、動物虐待の法律が非常に厳しいといいうのが大きいと感じています。シェルターの施設内で、動物が病死すると、「必要な医療を与えたか、苦痛を緩和する処置をしたか、なぜ安楽死を選択しなかったのか」と問われます。病死する前に、苦痛緩和として安楽死を選択するケースが多く見られます。
 病気や、ペットの凶暴性による安楽死の是非を、ここでは討論しませんが、以上のよに、2国の数値は、基本的に異なるスタンダードで出された数値です。統計数値を比較すること自体、ナンセンスであると理解できると思います。

 ではなぜ、私は日本を、「殺処分大国」と感じているのでしょうか。
 理由はいくつかあります。一つは、二酸化炭素による殺処分を容認していること。
 自治体の施設によっては、(公共、民間、個人を問わず)、飼育されている動物が、厳しい環境の中で飼育されていること(温度、湿度、多頭、衛生管理など)。公共の施設でも、動物に事故や病気があった時に、応急手当ができる獣医師、夜の看病や授乳を行っていないところが今だにあること。
 これらは、殺処分を前提としていると見なされても仕方ありません。

 殺処分してほしくて「飼えなくなったから殺してほしい」と持ち込む飼い主がいること。それを見届けようとしないこと。「飽きた」「自分の病気や高齢」「離婚」「アレルギー」など、持ち込む理由は、どちらの国も同じです。ただ、米国はその時、最後は、獣医師のところに自分のペットを連れて行って、安楽死をお願いする人が多いです。昨日まで家族だった自分のペットを、他人(行政)に殺させて、その人が次のペットを簡単に買うことができることに、福祉の低さを感じます。

 さらには、日本の「遺棄の多さ」でしょうか。ペットビジネッスに関わる人が、在庫管理に困って遺棄するのは、もちろん大問題ですが、一般のペットの飼い主が、やり場に困って捨てるのは、どうなのでしょうか。命に対する責任を、最後までとらないのは、福祉途上国としての証拠だと感じています。

 私は、ペットの人口過剰問題に関わり30年近くなります。問題は、行政、システム、予算、それぞれのペットの飼い主、愛護団体、保護活動をする方、獣医師、ペットビジネスに関わる人、ブリーダー、そして、ペットを飼う一人一人の飼い主さん、すべての人の責任であると思っています。法律の充実、一般市民への啓発、行政の充実、悪徳業者の取り締まり。。解決には多角的なアプローチが必要です。
+++

 殺処分がゼロになるのは、すばらしいことです。しかし、決してゼロがゴールではありません。行政が引き取りを断れば、捨てる人が増えます。引き取り屋ビジネスが現れるのも当然のことです。ゼロを目指すという目的のために、シェルターの中で、殺さないで、老犬が病死するのを待つ、ということが、行われても不思議ではありません。その犬が殺処分の統計に載らないのならば。その犬が、医療ネグレクトとされないのならば。
 大切なのは数値ではなく、それぞれのペットたちの、個々の福祉です。

 米国の考え方は、殺処分ゼロと同時に、それぞれの各動物の福祉です。シェルター内の譲渡動物であっても、各動物を最後まで責任を持って看る、苦しむようならば、安楽死をしてあげる、という、米国の努力を多く見てきました。目の前の保護動物が苦しまないように、というのが、最終ゴールです
 多頭飼育に関する規制や、調査が徹底していない日本では、キャパシテイーを超えて、自宅で保護犬、保護猫をキープし、衛生的ではないところで、満足な世話もされずに、狭いケージの中でボロボロになっているのを見たことがあります。そこで寿命が尽きたり、病死したりする命を、すべてカウントして、米国の270万がはじき出されています。

+++
Aさんへ。
 長く読んでくだありありがとうございます。大切なのは、殺処分数の数値ではなく、保護動物のクオリテイーです。統計は参考程度に考えて、目の前の1匹を保護するために、ボランテイアしたり、募金したり、という行動を行ってくださるとうれしいです。
 動物愛護活動をもし、したいのならば、目の前の1匹が、幸せに過ごせるよう、自分にできる何かを行うことだと思います。

(写真、ロサンゼルス公共シェルターにて。職員がボランテイアに書いたメッセージ。施設内の各動物が、気持ちよく過ごせるよう、あらゆる努力がなされている)



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