【台湾の狂犬病】”自然は最大のバイオテロリスト”


 台湾の狂犬病は拡大傾向が続いています。このまま風土病化するのでしょうか?

 インドネシアのフロレス島やバリ島の例を思い出します。
 ・インドネシアの狂犬病事情とフロレス島の現地調査報告書
 ・バリ島における狂犬病
 
 農林水産省消費・安全局動物衛生課の経過報告書によると、台湾で野生動物疾病モニタリングが開始されたのは2012年で、狂犬病が項目に追加されたのは今年からだそうです。
 ・台湾における狂犬病の発生について(平成25年9月20日)
 ・【OIE情報】台湾における狂犬病の発生について(平成25年9月30日)

 1958年以降、日本で狂犬病発生はありませんが、これだけ物資や人、動物の交流が活発だと、水際対策を整備しても侵入のリスクは封じ切れません。変化に鑑み、2001年に厚生労働科学研究班(主任研究者:源宣之氏)が『狂犬病対応ガイドライン 2001』を策定。今年、それを追補する形で『日本国内において狂犬病を発症した犬が認められた場合の危機管理対応』が策定されました。

狂犬病対応ガイドライン 2013 −日本国内において狂犬病を発症した犬が認められた 場合の危機管理対応−

 30ページ「(1)第1エリア」の 「第1エリア(=狂犬病発症犬が認められた地域)の対応策」に、「・モニタリング調査の実施 感染(感染の疑いを含む)動物、野生動物や野生化した動物、死亡動物などを対象として、モニタリング調査を実施する。」とあり、第1エリアの隣接地域もモニタリング対象となります。

 ということは、狂犬病撲滅宣言から今までの間、野生動物狂犬病モニタリングはやっていなかったようですね。個々の現場では個人裁量で、狂犬病を疑われる異常行動を示した哺乳動物の死体が検査機関に送られた事はあったかもしれませんが、狂犬病発生が確認されてからモニタリングを開始するスタンスのようです。

 *ハワイでは狂犬病の侵入がないかどうかを確認するモニタリングを定期的に行っているそうです。日本はサーベイランス体制はとっていないらしい。

 一度、狂犬病発生が確認されると、犬の管理は徹底されます。第一エリアにおいては調査の進捗状況に鑑み、移動制限等も発生しますし、野犬の存在は許容されなくなります。
 猫は人に感染させる確率は低いので、野良猫の一斉捕獲収容という事にはならないでしょう。ただ、状況如何です。狂犬病発生を疑われる野良猫の異常行動が多く目撃される状況が出現すれば、対応は柔軟に設定変更される筋合いです。


『[参考]狂犬病発症犬が認められた地域における犬以外の動物への対応』(26ページ)
 
(1)狂犬病発症犬が認められた地域における猫への対応

 猫は狂犬病の流行を維持する動物とは考え難く、通常は犬における流行が発生した場合に狂犬病発症犬から感染するものと考えられることをふまえ、狂犬病発症犬が認められた地域における猫に対しては、必要に応じて以下の対応を行う。

 ①住民等への情報提供
 住民に対して、猫に関する以下の情報を提供する。
 ・屋内飼育を徹底すること
 ・屋内飼育以外の猫との触れ合いを避けること
 ・狂犬病発症犬等と接触した猫からの咬傷を受けた人、屋内飼育以外の猫からの咬傷を受けた人については、医療機関を受診すること

 ②狂犬病が疑われる猫に関する情報収集等
 狂犬病に罹患していることが疑われる猫の存在の有無について、あるいは存在していた場合の状況について、以下の情報収集等を行う。
 ・市町村等の協力のもと、狂犬病が疑われる神経症状を示す猫(死亡例を含む)の情報を収集すること
 ・狂犬病発症犬等と接触した猫が特定された場合は、適切な隔離施設に収容し、観察すること。
 ・狂犬病が疑われる神経症状を呈して死亡した猫に関しては、検査可能なものについては、狂犬病の確認のための検査を実施すること。なお、この際の検査については、基本的には各々の都道府県で実施することが望ましいが、必要に応じて、国立感染症研究所に技術協力を求めることとする。また、狂犬病の研究を行っている獣医学系大学等との連携も考えられる。
 ・狂犬病が疑われる神経症状を示す猫(死亡例を含む)を取り扱う際には、適切な感染防護措置をとること

 ③その他
 狂犬病ワクチンの供給の逼迫が想定される場合は、発生地域の犬への接種を優先する。 



 OIE公式サイトで”rabies”のキーワード検索をかけると蓄積された資料がヒットしてきます。政府間機関OIEには、加盟国178ヶ国(2013年現在)から狂犬病関連情報が報告され、ほぼ世界中のデーターが集約されている。

 バリ島もフロレス島も狂犬病の歴史の無い島でした。狂犬病発生が確認され、ワクチンや専門家派遣の国際支援や地元当局に民間保護団体も協力して撲滅キャンペーンが精力的に行われたにも係らず、風土病化した原因は社会的、文化、宗教的な様々な要因が絡んでいて、OIE資料を拾い読みしていくとちょっとした世界旅行している気分になります。

 例えば犬食文化が残っている地域では、ワクチンの無料キャンペーンを実施しても一部の住民は利用しない。ワクチン打った犬は食用に出来ない、売れないというのが、その理由です。住民意識が行政指導についていかなければ撲滅キャンペーンは失敗します。
 石黒、川又両獣医師による「インドネシアの狂犬病事情とフロレス島の現地調査報告書」では、現地の村に電気がない、ワクチンを保存する冷蔵庫がないという話が出てきます。インフラ整備の格差も大きく影響してきます。

 現在、世界中で狂犬病清浄国はわずかになってしまいました。清浄国には歴史的に狂犬病発生が無く、現在に至るまで侵入がない清浄国と、日本のように風土病化した狂犬病を撲滅して発生ゼロを維持している清浄国の二通りあります。前者は年々少なくなる。フロレス島やバリ島の事例が示す通り、近年になって狂犬病が新たに侵入、定着してしまった地域がある。


 【ご質問への回答】アイスランドは狂犬病発生の歴史がなく、今日まで来ています。
 私が見たのは、2002年にOIE(the World Organisation for Animal Health) が出版した「Historical Perspective of Rabies in Europe and the Mediterranean Basin」です。電子書籍で公開されているので、「CHAPTER 3 – RABIES IN THE UNITED KINGDOM, IRELAND AND ICELAND」(25ページ~)をご覧下さい。
 Summaryに『Rabies has been reported in the United Kingdom (UK) and Ireland but the disease has never been detected in Iceland.』とあります。
 十年以上前に上梓された論文集ですが、それ以降、アイスランドで狂犬病が発生した記録も皆無のように思います。『アイスランドでは野良猫は即殺です。最近イギリスで狂犬病が発生したからです。』というのは、”さんかくたまご”のデタラメです。
 イギリスでコウモリによるリッサウイルス感染で死亡者1名が出たのは2002年で、10年以上前の話です。1902年以来ですから、実に1世紀ぶりの発生で、それ以降、狂犬病発生はありません。アイスランドで野良猫問題が社会問題化しているとは到底、考えられませんしね。
 

 狂犬病ウイルスは宿主の体外では極めて短命なウイルスなので、見方を変えれば、狂犬病ウイルスは生き残りを賭け、宿主拡大の世界制覇を達成中のようにも見えますね。狂犬病ウイルスは生態系の”一員”で、最強のバイオテロリストといったところです。人間社会への侵入を許さぬよう、監視体制がとられていますが、すり抜けて入ってくるリスクを封じ切ることは出来ません。

 日本は平成14年(2002年)に検疫の強化対策をとり、平成16年6月には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が公布されました。

 この時期、平成15年(2003年)に狂犬病ワクチン接種不要論争が起きましたが、加沼戒三氏の主張の焦点は日本の検疫制度の不備、外来種輸入に対する政策不在にあった。省庁が日獣を利用して、論点を狂犬病ワクチン要、不要論争に限定し、すり替えてしまった感じは否めません。肝心な主要な論点はスルーされ、正面から取り上げられていません。

 当時は外来種生物の在来生態系への侵入防止を法制化する時期と重なっていた事もあり、原則、外来種や野生動物輸入禁止を望む声は強かったのですが、利権絡みの業界の力が強かったという事でしょうか、予め被害が発生しない体制を設定する法律にはなりませんでした。

 現行法がかくのごとき有様で足踏みしている以上、飼犬の狂犬病予防接種は必要です。  



狂犬病予防注射に関する新聞掲載意見について(通知)

 平成15年4月17日付け15日獣発第23号をもって地方獣医師会長あて,次のとおり通知した.
15日獣発第23号
平成15年4月17日

地方獣医師会会長 各位
社団法人 日本獣医師会
会 長 五十嵐幸男
 (公印および契印は印刷に代替)

狂犬病予防注射に関する新聞掲載意見について(通知)
 
 本年3月27日付けの朝日新聞朝刊「私の視点」(別添1)に,長野県下の診療医師・加沼戒三氏の「狂犬病 無駄な予防接種をやめよ」と題する意見が掲載されましたが,その内容は,狂犬病侵入の危険性を指摘しつつも,予防対策の要となる予防注射による免疫賦与が無意味であるかのごとき主張に代表されるとおり,論旨の多くが適正を欠くといわざるを得ないものでありました.
 本件の取り扱いについては,本会と厚生労働省との間で協議した結果,先ず狂犬病研究の第一人者の方に純学術的観点から当該意見について論評していただくのが適切との判断のもと,関係者と協議してきましたが,その結果,今般,4月17日付け同紙の同コラムに岐阜大学教授・源 宣之氏の反論「狂犬病 予防注射は有効な保険だ」が掲載されました(別添2)ので,取り急ぎお知らせいたします.
 現在,各地方獣医師会におかれては地方公共団体からの委託等を受け,会員獣医師の協力のもと狂犬病集合予防注射を鋭意実施されているところでありますが,今後とも,狂犬病予防対策の円滑な推進につきまして,一層のご尽力を賜りますようお願い申しあげます.

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(別添1)
 平成15年3月27日 朝日新聞 朝刊35面
 
私の視点
◆狂犬病 無駄な予防接種をやめよ
  加沼戒三(長野県美麻村国民健康保険診療所医師)
 
 春になると憂鬱な気分にさせられる.医学的に無意味でありながら,「20万円以下の罰金」の力を背景に強制される,狂犬病の予防接種が始まるからである.全国約550万ともいう犬の飼い主が,この予防接種で負担させられる金額は年に200億円にも及ぶ.
 狂犬病は人畜共通のウイルス感染症だ.犬に自然に発生するものではなく,感染源となる動物がいない限り被害は起きない.国内では70年以降,人及び犬を含む家畜,野生動物に狂犬病の発生はなく,ウイルスは存在しない.
 にもかかわらず,なぜ毎年,犬にワクチンの接種をしなければならないのか.現に,狂犬病のない英国,アイルランド,北欧諸国ではこうした措置はとっていない.それどころか豪州とニュージーランドでは禁止されている.接種を強制する国は,ウイルスが犬や野生動物に存在する国・地域に限られるのである.
 日本の場合,危険なのは犬ではなく,海外から輸入されるすべての哺乳類だ.しかし,現在の検疫制度は狂犬病の防止には無力といっていい.感染のおそれのある動物が無検疫で大量に輸入されているからだ.
 最も危険とされるコウモリもそうだ.米国では犬と同等の危険性があると警戒されているフェレットも,年間1万5千頭以上が検疫なしで国内に入ってきている.「万全な対策をとっており,国内発生はあり得ない」とされたBSE(牛海綿状脳症)があっさり侵入したように,狂犬病の「上陸」は現在の検疫制度下では十分ありうるのだ.
 海外で狂犬病に感染する危険性について十分な考慮がされていないのも,日本の特徴である.ウイルスをもつ犬や猫,猿などに渡航先でかまれる危険性は決して小さくない.海外渡航者へのワクチン接種こそ必要なのに,実際に受ける人は少ない.世界で広く行われているWHO方式では接種は1カ月で終了するのに,日本は別方式を採用しており,最短でも半年かかることも一因といえる.
 もちろん今では,狂犬病に感染したとしても有効な治療法が確立しており,早期に診断・治療を受ければ治療は可能である.しかし日本では抗狂犬病免疫グロブリンが認可されていないため,十分な治療はできない.感染している動物にかまれた後に帰国し,現地にとどまっていれば可能だった治療を受けられないまま発病,そのまま死亡する.そんな危険性もある.
 改めて思うのは,日本における「犬文化」の貧弱さである.補助犬(盲導犬・聴導犬・介助犬)の少なさもその一例だ.なるほど昨年10月に身障者補助犬法が施行され,公共施設への同伴入場などが可能になった.だが,日本では盲動犬は900頭にみたず,聴導犬にいたっては20頭程度しかいないとされる.翻って米国で活躍する聴導犬は4千頭という.
 1頭育成するのに200万円程度かかるとされる盲導犬や聴導犬を欧米並みにするには多額の資金が必要だ.無意味な狂犬病予防接種をやめ,そこに投じられてきた費用を補助犬育成にまわしてはどうか.ハンディを負う人々に希望を提供できることになる.それをこそ「豊かな社会」と言うのではないだろうか.

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(別添2)
 平成15年4月17日 朝日新聞 朝刊12面
 
私の視点
◆狂犬病 予防注射は有効な保険だ
 源宣之(岐阜大学教授(人獣共通感染症学))
 
 3月27日付「私の視点」で,狂犬病について加沼戒三氏は「無駄な予防注射はやめるべきだ」と主張しているが,反論したい.
 狂犬病は,日本では56年のイヌ,57年のネコを最後に,58年以降は発生していない.世界でも数少ない清浄国と言えるのは,ワクチンの接種など,さまざまな対策をしてきた先人の努力の賜だ.だが,最近は発生してもおかしくない状況がある.「予防注射は無駄」とはいえない.
 狂犬病は,人を含めたすべての哺乳類がかかる.発病すると悲惨な神経症状を示した後,100%死亡する.地球上で最も危険なウイルス感染症だ.
 日本の近隣各国を含めたアジア,アフリカ,北中南米,欧州などで狂犬病は現実に発生している.人の発病死は,年間3万3千件と報告されているが,実数は十数万とも見られる.狂犬病を発生していない日本,英国,豪州などは例外といえる.
 感染から発病までの潜伏期間は平均1~2カ月間で,その間の診断は不可能だ.突然発病して1週間から10日で死に至る.人に対する有効な治療法は,動物にかまれた後,できるだけ早くワクチン注射をすることしかない.抗狂犬病免疫グロブリンを併用すれば,治療効果が高まるが,日本にはほとんどない.
 狂犬病の発生防止対策は大きく分けて二つある.一つは英国や豪州などで取られている水際作戦で,動物検疫の厳密実施だ.この場合,国内のイヌには予防注射をしないが,入国するイヌには免疫獲得の事前確認が必要になる.野生動物は輸入が禁止される.
 だが,病原体が検疫をすり抜けた場合は大打撃を受ける.最近,英国や豪州で,狂犬病にきわめて近いリッサウイルスが入り込み,感染症を起こしていることが明らかになっている.
 もう一つは,日本のように動物検疫と国内でのイヌの予防注射を併用することだ.動物検疫は英国や豪州ほど厳しくなく,日本ではイヌ,ネコ,キツネ,スカンク,アライグマが対象で,他の野生動物はフリーパスだ.病原体の侵入を許す危険性はあるが,最も人に感染させやすいイヌに免疫をつければ,国内の流行は阻止できる.
 狂犬病は日本では大正時代,年間3千件以上発生していたが,22年からイヌへの予防注射を徹底すると,約10年間で撲滅寸前にまで抑えた.だが,戦時中に対策がおろそかになると,戦後は年間約1千件に激増.50年に現行の狂犬病予防法が制定され,予防注射拡大の結果,7年で撲滅した.その有効性は証明済みだ.
 狂犬病ウイルスやリッサウイルスが日本に侵入する可能性は高まっているといえる.その理由は(1)近隣各国を含め世界での発生が減っていない (2)多数の愛玩用野生動物が検疫なしに輸入されている (3)不法に入る動物が年々増加している,などである.
 日本では,家畜への検疫が厳密だったにもかかわらず,00年に宮崎市で口蹄疫が92年ぶりに発生した.水際作戦の難しさを物語る出来事だと言える.
 万一狂犬病が日本で発生した場合,口蹄疫や牛海綿状脳症(BSE)の発生時とは比べられないほどの大混乱と経済的負担が起きるだろう.イヌの飼い主が1年に1度,予防注射に約3千円払うのは,大パニックに対する保険だと思えば,そう高い代価ではない.



 10年前の論争なので、文中の引用データーはその後、変化がありますが、「日本では抗狂犬病免疫グロブリンが認可されていない」状況は、今も変わりありません。

 次に狂犬病が発生した時、野生動物に蔓延しない保証があるのでしょうか?国内の野生動物の増加は明らかですし、外来種のアライグマは駆除が追いつかず定着しています。北米の狂犬病はキツネ、スカンク、アライグマ、コウモリに多く、広域の野生動物にウイルスが定着すれば、風土病化の最大の要因となり得ます。私には日本が野生動物輸入禁止の原則を立てない理由が分かりませんね!検疫の手が回りかねる頭数を入れる必要なんか、ないじゃありませんか!
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